子どもをいじめから守る方法

子どもをいじめから守る方法

いじめの兆候(サイン)を見逃さない

 保護者の皆様向けに、いじめの発見方法、そして対処の仕方を簡単にお伝えします。

 子どもは、原則、自分がいじめられていることを親には言いません。しかし、いじめは風邪と同じように、必ず兆候(サイン)があります。この兆候をお母さん、お父さんが注意深く見てあげることで、いじめを発見し、対処することができます。

《いじめられているときのサイン》
  • 急に元気がなくなる。
  • 帰ってくるとすぐに部屋に閉じこもる。
  • 理由のわからない成績の低下。
  • 親の前で携帯のメールを見なくなる。
  • 友達から電話があっても、出たがらない。
  • おねしょをする。
  • 妙に明るく装う。
  • 教科書に落書きがある。
  • 服が破れていたり、汚してくる。
  • 物をよくなくす。
  • 急にお金をほしがる。
  • 擦り傷や打撲がある。
  • 頭痛を訴え、学校に行きたがらない。

 こうした兆候があれば、いじめられている可能性があるとみてあげましょう。

 そしてさりげなく、知り合いの同級生や登下校で一緒になる子どもの父兄などから、学校での子どもの様子などの情報を集めたり、子どもには気づかれないように持ち物などをチェックしてあげてください。筆箱の中の鉛筆が折られていたり、教科書に落書きがあったり、ノートが破られていたり、誹謗中傷のメールが送られていたり、ノートにいじめを訴える記載があるかもしれません。

 そして機会を見て、子どもと真摯に向き合って、いじめられているのではないかを聞いてあげてください。そのとき、決して問い詰めたり、尋問するのではなく、いじめられている子どもの味方との立場をしっかりと伝えます。自分が過去にいじめられた経緯や、「いじめはいじめる方が一方的に悪く、いじめられる方は悪くない」と考えていることなどを、やさしく話してあげることも効果的でしょう。

 そして、大切なのは、「もし、あなたがいじめられていたら、お母さんは(お父さんは)命をかけてあなたを守る」と、宣言してあげることです。

 

子どもからの聞き取り+証拠集め

 子どもがいじめられていることを話してくれたら、できるだけたくさんの情報を子どもから引き出します。

  • いつ、誰が、どこで、どのようないじめをしたのか。
  • 加害者はひとりか、複数か、複数なら誰と誰か。
  • それを目撃していた子どもはいるか。いたら、それは誰か。
  • 具体的に、どんなことをいわれたか。
  • 具体的に、どんなことをされたか。
  • 怪我をさせられたことは。
  • それをどう感じているか。

 そして、もし子どもに傷があったり、物を壊されていたり、落書きされていたなどの証拠があったら、その写真を撮り、現物を保管します。怪我や打撲の跡、さらに精神的に不安定さなどがあれば、病院にいって診断を受け、診断書を書いてもらいます。

 こうして可能な限りいじめの証拠を集め、確保することは、極めて重要です。

 というのも、いじめる側(加害者)の子どもは、被害者がいじめの事実を訴えても、「自分はしていない」と嘘をつくことが多いからです。加害者の子どもが嘘をつけば、加害者の親もそれを信じ、あとは「やった、やらない」の水掛け論に陥ってしまいます。そうしたことを避けるためにも、子どもからの詳細な聞き取りメモ、証拠の存在が、後々大きな力を発揮するのです。

 

「被害事実」の文書化と「要望書」の作成

 被害の詳細を聞き取り、証拠を集めたら、今度はそれを文書化します。これは、今後学校と交渉していじめを止め、子どもを守るために極めて重要です。

 多くの父兄は自分の子どもがいじめられていることがわかるとすぐに、文書ではなく「口頭」で学校に相談します。電話や面談で「うちの子どもがいじめられているらしい。何とかしてほしい」と。もちろんそれで迅速に対処してくれる学校もあるかもしれません。しかし多くの場合、口頭では事態の深刻さ、詳細が教師には伝わらないため学校は期待通り動いてくれません。

 特に公立学校では、教師は公務員であり学校も行政機関の一つです。通常のお役所と同様に、文書を提出されて初めて、自らの「仕事」と「責任」が発生していることを自覚すると理解すべきです。

 そこで、私たちがアドバイスしているのが「被害事実の文書化」と同時に、学校への「要望書」を作成することです。

  • 「被害事実の文書化」…学校(校長)に何をしてほしいのかを、具体的に要望し、文書で回答を求めます。基本的には、①いじめ加害者への厳重注意(いじめ行為を認識させ、それが悪であることを認識させ、反省させる)②加害者と保護者からの心からの謝罪③再発防止策の提示。以上3点を期限(即刻、3日以内など)を切って、対応の実行と文書での回答を求めます。
  • 要望の内容は、被害の深刻さに応じて異なってくるでしょうが、心身に致命的な損傷や後遺症がない段階なら、基本的に「加害者の心からの反省と謝罪」が妥当だと思います。
  • というのも(悪質な場合を除いた)通常のいじめなら、加害者が心から反省し、被害者に直接謝罪するば、被害者の心は癒され、身も心も復活していきます。そして、その後の再発防止策(担任や校長によるクラスの見回り、クラスや学年の全体指導、いじめが再発したときのホットラインの確立など)が行われれば、いじめ自体も止めさせることができます。

 

学校との交渉

 担任を通して、校長との面談の時間をとり、この2つの文書を直接校長に説明して手渡し、早急な実行と、結果の文書による回答を求めます。

 学校と教師は、子どもの生命、身体の安全を守るために、万全の措置を講ずる義務(「安全配慮義務」「いじめ回避義務」)を負っています。万一、被害を受けた子どもや保護者からいじめの被害申告を受けたにもかかわらず、措置を講ずることなく、いじめ被害が発生した場合、裁判で、この安全配慮義務に違反し、被害との相当因果関係が認められる可能性が高くなります。このことも、明確に学校に伝え、迅速で毅然とした対処を求めましょう。

 もし学校側が納得のいく対処を取らない(動いてくれない)場合は、文書と、学校とのやりとりの経緯を説明した文書を添えて、市町村の教育委員会に相談します。それでも駄目な場合は、都道府県の教育委員会、さらに市町村の人権擁護委員会、警察、マスコミ、議員など、相談の対象を広げて行きます。

 ここまでやって、学校が十分な対応もとらず、対処もしない場合は、子どもの安全を守るため、転校も選択肢として考えましょう。そのような学校を思い切って見限り、転校することで、いじめが止み、子どもが元気を回復するということも数多くあります。

 

保護者と学校側が協力し、子どもを守る!

 もちろん被害が深刻で、いじめの内容も明らかに刑法に抵触する犯罪行為に該当する場合は、速やかに警察に連絡し、相談するべきです。

 最近は、警察もいじめ事件に積極的に関与する傾向にあり、事件性があれば、被害届を提出することで捜査に乗り出します。とりあえず近くの警察署や県警本部の生活安全課などで相談するだけでも、警察から学校に連絡が入るなど、事態の進展にプラスになります。

 いずれにしても、父兄と学校側が協力して迅速に対応し、「いじめ加害者に厳重に注意し、反省させ、謝罪させる。そしてしっかりとした再発防止策を講ずる」といった措置が取られるならば、子どものいじめの多くは解決し、被害者を救済することができます。そうした毅然とした指導によって、加害者も自らの過ちに気づき、更生する機会を得ることができます。

「当たり前」と言えば当たり前のことですが、この「当たり前のこと」がなされないことに、「現代のいじめ問題」の本質があるのです。

 

山田太郎君(仮名)の「いじめ被害事実」

2年2組 山田太郎の「いじめ被害事実」

【保護者による聞き取り】

 先日、私どもの長男・太郎からこれまでのいじめについて、ゆっくりと話を聞く機会が持てました。1年生の時からA君からのいじめが始まったと言います。まずは言葉でからかわれ、1年生の終わりから2年生になる頃にたたいたり蹴ったりの暴力行為に変わっていきました。毎日のように、誰かしらにいじめられていましたが、親が聞かなかったので黙っていたと言います。

5月17日(木) 体育時に「追い越すな!」と他の子に言ったところ、勘違いされてか、A君から「うるさいんだよ!」と胃のあたりにパンチを入れられる。B君から、休憩時にひざで急所を蹴られる。

5月18日(金) 際立ったいじめはなかったが、毎日必ず誰かしらに叩かれたりしていると言う。

5月21日(月) 給食時にC君から平手で背中をおもいっきりたたかれる。3回は強く、4回は若干弱め。先生はちらっと注意してくれた。

5月30日(水) 以前から時々「ゲロだ!」と嫌な呼び方をする。なかなかやめてくれない。
※太郎は言葉には特に傷つきやすい。

5月31日(木) 廊下で、A君から膝で急所を3回蹴られる。

6月15日(金) B君が蹴ったり、肘鉄したりする。A君よりは弱めだが毎日。D君もちょっかいを出してくる。「やめて」と言っても止めない。他の子は見ているがほとんど何も言わない。(他の子も叩かれることはあるらしい。)

→本人(太郎)のストレスになっているようで、遊んでいるときは忘れているが、勉強を始めると思い出してしまい。身が入らないのだと言う。

6月18日(月) 給食の後、A君、B君が頭を一回づつ叩く。

6月19日(火) 何もしていないのに、朝、靴から上履きに履き替えるときに、D君から「ゲロだ、ゲロだ」とからかわれる。「やめろ!」と言った。

6月25日(月) 帰宅が少し遅れたので、父親が理由を聞いたところ、クラスの女子のEちゃんが蹴ってきて、きりがないので逃げたら、C君が追いかけてきて蹴ってきた。その後、学校の近くの公園に行き、最初はそこにいた子どもたちと普通に遊んでいたが、その中にいたF君とG君に「こっちに来るな!」「あっちに行け!」のようなことを言われ、元気なく帰ってくる。

6月26日(火) C君から上履きを履いた足で左膝下を蹴られる。アザになる。一回は他のところを蹴られたがアザにはならなかった。三時間目終了後、先生がC君に「なぜそんなことをするのは?」と聞くと「キモイから!」と答える。

6月29日(金) 担任の先生との懇談後、先生は「クラスの中で他の子もいじめられているけれども、太郎君へのいじめが一番ひどい。最近はさらにクラスの女子がいじめに加わるようになり、エスカレートしてきている。普段しないような子まで何故かつられていじめるようになってきている」という。今まで女子のいじめは言葉が多かったが(「キモイ!」「気色悪い!」のような)手足が出るようになってきた。

 

学校への「要望書」

 

◯市立△小学校校長
✕✕✕✕校長殿

いじめ問題解決に向けての要望書

200◯年△月✕日
山田一郎・花子 捺印

1.はじめに
 私どもの長男 山田太郎(2年2組)へのいじめを早急に解決いただきたく、下記のように要望します。

 

2.被害状況
 長男太郎は、毎日のように学校のクラスメートにいじめを受けており、そのストレスが原因で、弟たちに必要以上にきつく当たったり、母親に暴言を吐いたり、勉強が手につかない等、大変憂鬱な毎日を過ごしています。それでも学校は好きなので、いじめられるのは嫌でも頑張って登校しています。しかし、いじめは次第にエスカレートしてきており、このままでは不登校になるのは時間の問題です。

 被害状況の詳細については、別紙「いじめの被害事実」をご参照ください。

 

3.要望事項
 担任の先生がいじめの存在を認識し、何とか改善しようと努力して下さっていることには、心から感謝しています。しかし、長男太郎へのいじめは改善されるどころか、ますます悪化しています。その現状を見るにつけ、残念ながら担任の先生が効果的な手を打てているとはとても考えられません。従いまして、本いじめ問題に対して、学校を上げて真剣に早期解決に取り組んでいただきたく、下記の通り要望いたします。

 

(1)早急にいじめをやめさせること

  • 加害児童への厳重注意(人の心身を傷つけることは悪であることを徹底指導する)【即日】
  • 加害児童と保護者からの謝罪【三日以内】

(1)の対策状況と再発防止策の文書提示(報復防止を含む)【五日以内】

 

4.おわりに
 現代のいじめは、昔のいじめと違って、子どものいたずら程度ではなく、陰湿な犯罪であると考え、教師と保護者が力を合わせて対処すべき問題であると考えます。文科省が示している通り、いじめであるかどうかの判断基準は、いじめられている側がどれだけそれを苦にして傷ついているかどうかです。人の心や身体を、言葉や肉体的暴力によって傷つけるのは悪であり、人の心を明るく幸福に満たすことは良いことであるといった「善悪の徹底指導」が、子どもの時こそ必要です。子どもは国の宝です。国が滅ぶか発展するかは、いかなる教育をしたかにかかっています。家庭においては親が、学校においては先生が、その責任を担っています。子どもたちの健全な発育のために「していいこと、して悪いこと」をしっかりと教える御指導を、何卒よろしくお願い致します。

 

以 上(文中の氏名は仮名)